2018/1/10

月刊事業構想2月号に掲載されました

AlonAlon
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

千葉県富津市に2017年にオープンした「AlonAlonオーキッドガーデン」は、知的障がい者が胡蝶蘭を栽培する就労継続支援B型事業所だ。オープンからわずか数カ月間だが、大企業や自治体関係者の視察が途絶えることはない。この施設が注目を集める訳は、障がい者の給与アップや企業の障がい者法定雇用率達成支援に繋がる、独自のビジネスモデルにある。

障がい者福祉の3つの課題

 この施設を運営するNPO法人AlonAlonの那部智史理事長は、もともと東京でIT企業を創業・経営していた。上場企業に会社を売却後、千葉県いすみ市でサーファー向け賃貸アパート経営を行いながら、障がい者雇用問題に取り組み始めた。

 「私の息子は最重度の知的障がいを持ち、会話をすることも困難です。子どもの未来を考えて知的障がい者施設を数多く視察し、構造的に問題を抱えた業界だと気づきました」

 那部氏は「現在の障がい者福祉(就労継続支援)には3つの問題がある」と指摘する。一つ目は工賃の低さ。厚生労働省の調査によれば、就労可能な障がい者の平均月収はわずか1万5,033円(2015年度)。障がい者年金を加えても、生活を自立させるのは困難だ。

 二つ目は、施設職員の待遇の悪さ。作業所生産物の売上はすべて障がい者に還元され、職員の給与は国からの給付金に依存している。事業所の維持費などを差し引くと、職員給与は1人当たり300万円程度。障がい者施設でトラブルが頻発するのは、こうした将来が見えない環境が一因だと那部氏は見ている。

 そして最後は企業の障がい者雇用が進んでいないこと。企業の障がい者法定雇用率は現行の2.0%から2018年4月には2.2%に引き上げられるが、現在、法定雇用率を達成している企業は48.8%に留まっている。特に知的・精神障がい者の雇用環境は厳しい。

5年間徹底して「出口」を開拓
B型事業所で「月収10
万円」を目指す

 3つの課題を解決するために那部氏が考案したものが、胡蝶蘭栽培を中心にしたビジネスモデルだった。

 「これまでの就労継続支援事業所は『出口』を意識していませんでした。野菜栽培やパン製造では事業所の売上に限界があります。私達は胡蝶蘭という企業に不可欠なものを狙いました」。那部氏は経営者時代、慶弔のたびに送られてくる胡蝶蘭を見て、その市場の大きさに気づいたという。「胡蝶蘭の販売価格は3本立てで約3万円。単体市場規模は約333億円と大きいのです」

 那部氏は2012年にAlonAlonを立ち上げ、5年間は胡蝶蘭の『出口』づくりに徹した。花卸売大手のアートグリーンと共同で、特例子会社(障害者が働く企業)の胡蝶蘭栽培の指導と販売に取り組み、実に800社への販路を開拓。そして満を持して2017年8月、千葉県富津市に自前の温室「AlonAlonオーキッドガーデン」を完成し、12月に就労継続支援B型事業所の認可を取得した。温室では、知的障がい者たち(施設定員20人)が胡蝶蘭の苗を6カ月間かけて育て出荷する。フル稼働すれば、年間約2万本の胡蝶蘭を栽培でき、「月額工賃10万円を達成できる」と那部氏は見ている。

 胡蝶蘭の一般消費者市場を開拓するために「オーナー制度」も考案した。オーナーは1万円で10株の苗を購入し、6カ月後に1株分(1万円相当)のアレンジフラワーを受け取り、残り9株は企業に販売して障がい者の収入になる。「オーナーが得をすることはありませんが障がい者の収入はアップします。『どうせ買うならば知的障がい者の育てた胡蝶蘭を選びたい』という企業や消費者の共感を集めていきたい」

「自社栽培」で法定雇用率アップ

 さらに、企業の法定雇用率達成を支援するために、AlonAlonとアートグリーンの合弁で11月にA&A株式会社を設立。同社の目的は、胡蝶蘭を自社栽培に切り替える企業を募集し、サポートすることだ。「大企業では年間3,000万円以上も胡蝶蘭を購入しているところも珍しくありません。法定雇用率が未達であるならば、AlonAlonで栽培技術を身に付けた障がい者を雇用して胡蝶蘭を自社栽培したほうが様々なメリットが生まれます」

 今後、オーキッドガーデンに併設する形で、A&Aの企業向け胡蝶蘭栽培拠点を整備し、企業への栽培スペース賃貸や苗の販売、栽培指導、配送、胡蝶蘭を育てられる障がい者の紹介までを行っていく。A&AはNPO法人AlonAlonの子会社であるため、配当や経営指導料としてA&Aの利益をAlonAlon職員に配分できる。これで施設職員の待遇の悪さという課題も解消される。

 「現在、企業10社程度から引き合いがあります。自社で利用する胡蝶蘭の栽培だけでなく、栽培技術習得を目的としたAlonAlonへの社員出向、胡蝶蘭の外部販売も行える特例子会社の設立支援など、ニーズに応じたサポートを行っていきます」

 オーキッドガーデンでの胡蝶蘭栽培が本格化するのはこれからだが、那部氏は早くも全国展開の準備を始めている。胡蝶蘭の価格の3分の1は物流コストが占めており、その解消には地産地消が必要。2018-19年から福岡を皮切りに大阪や名古屋にも地元障がい者支援NPOと連携して温室を整備し、A&Aの支社も開設する方針だという。

 「障がい者の工賃が上がれば、障がい者は楽しんでお金を使うことができるようになります。そうすれば住居・レジャー・食など様々な市場が立ち上がってくるし、地域活性化にも繋がると思います。事業を通じて真のインクルーシブな社会を築くことが私達の目標です」と那部氏は力強く語った。

  • 月刊事業構想2月号.pdf
    Adobe Acrobat ドキュメント [16.91 MB]
    ダウンロード