知的障がい者が経済とつながる仕組みで、福祉の常識を変える
●福祉作業所で働く知的障がい者に月10万円の工賃
2017年12月から千葉県富津市で、「AlonAlonオーキッドガーデン」という、知的障がい者のための継続型就労支援作業 所(B型事業所)を運営しています。
以前、私はベンチャー企業の支援を行う会社を経営していましたが、一人息子が重度の知的障がい者であり、特別支援学校を卒業した後、彼がどのように生きていくかを考えました。
現在、B型事業所で働く障がい者の月間工賃は全国平均で1万5000円あまり。
障がい者年金は多くても月9万円ほどしかありません。多くの知的障がい者は、経済とは切り離された福祉の世界で生きるしかないのが実情です。
しかし、障がいを持っていても、働きたい者はその能力に応じて働き、適正な対価を得られるのがあるべき姿ではないか、また、彼らときちんと協業する企業へのメリットを作れないか――そこで、NPO法人による福祉作業所の運営を始めたのです。
この「AlonAlonオーキッドガーデン」では、働く障がい者(利用者)に月10万円の工賃を支払う仕組みを構築しています。
簡単に言えば、事業所で受け入れた20名の障がい者が5人1組でチームを作り、専用の温室で胡蝶蘭の栽培を行います。
まず、 10本の苗(1万円)を、たとえば、母の日のプレゼント用として個人に買っていただき、半年ほど育てて開花したら、そのうち1本をフラワーアレンジメントとして苗の購入者に届ける――とともに、残り9本を企業の祝い花として販売し、その収益を利用者の工賃とします。
また障がい者法定雇用率が達成できていない企業に、温室内の胡蝶蘭を育てるベンチ(=棚)を貸し出し栽培を行うという事業を、大手胡蝶蘭卸業のアートグリーン株式会社(名古屋セントレックスコード番号3419)と合弁会社(A&A株式会社)を設立し提案しております。
さらには、企業が利用者を直接雇用し、そのまま我々の施設で胡蝶蘭栽培に従事させることも可能です。
そうすると、企業は法定雇用率をクリアできるとともに今まで生花店で購入して いたお花の購入経費の削減ができます。
そして施設の定員が空くので、また新たに利用者を受け入れることができるのです。
この仕組みでは、福祉作業所に勤務する職員の待遇改善も可能になります。B型事業所で定員20名の場合、おおむね5名の職員が必要ですが、国からの各種給付費は年間2000万円ほどしかありません。
そこから水道光熱費や送迎などの経費を差し引くと、職員の 給料は非常に低くなってしまいます。
我々の仕組みでは、A&A株式会社の収益を、NPO法人AlonAlon(親会社)に配当として回し、職員の待遇改善に充てる予定です。
●企業の戦力となり、対価をもらう仕組みを貫く
障がい者とどう向き合うかという点において、これまでは、あまりにも“福祉の発想”に偏っていたのではないでしょうか。そこにビジネスの発想を持ち込むことで、福祉の常識を変えていくことが可能だと私は考えています。周りからは、「 障がい者を働かせてけしからん」「商用目的のNPOではないか?」などと異端視され、批判されることも少なくありませんが……。
しかし、継続型就労支援作業所は、本来、障がい者が一般企業や団体で働くことを目指し、そのために必要なスキルや技能を身につけ ることを目的としています。
それなのに、現実では、わずかな国からの給付費を確保するため、障がい者を囲い込む動きも見られ、 企業側も、法定雇用率をクリアするための人数合わせに走っているケースがあります。
障がい者を雇用して勤務時間中に計算ドリルをひたすらやらせる。
そうした企業と我々は組みたくありません。
障がい者が育てた胡蝶蘭を贈答用などとして実際に使ってもらうのが大前提で、 その品質は一流です。
障がい者が企業の戦力として働き、対価をもらう仕組みを貫き通していきます。
障がい者は守ってあげる対象ではありません。共に生きる仲間です。もっと福祉の世界の風通しをよくし、社会とのつながりを広げていきたいと考えています。